GHファンフィクションサイト「白日夢ーまひるにみるゆめ」のblog。
更新記録、突発sssなど
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「ねぇねぇ、ナル、これ読める?」
楽しげに告げられて、指さされた文字は、
『難波』
「──なんば、だろう。確か地名だったと思うが」
数年前、嫌になるほど日本の地図を見続けたお陰で、地名だけは辛うじて読める。
彼女の方も分かっていたようで、
「うん、今はね」
と、あっさり頷いた。
だがすぐに、
「でも、古来──昔の読み方は違ったんだって」
「そう」
大学の一般教養科目で古典でも取っているのか。
目では手元のジャーナルを追いながら、適当に相槌を打つ。
彼女は構わず続けた。
「そもそもの読み方は、『ナルニハ』って言うんだって」
メモ用紙に書かれた『難波』の文字の上に、カタカナでそう書く。
「でね、この、『ナル』って部分の意味だけど」
こちらを向いて、微笑んだ。
「──古代の朝鮮語で、『太陽』なんだって」
本当に、嬉しそうだった。
「…奇遇だな」
「そうだね。でも、なんとなーく嬉しいよ。ナル、の名前はニックネームなんだろうけどさ。
良いよね」
「ただの偶然だろう」
「そうだけどさー」
……楽しそうに漏れ聞こえる会話に、『ここは職場なんですが』という小言は出がけた吐息と共に飲み込んだ。
ここに、もう一人の事務職員が居れば、さっそくこの会話を録音するなりなんなりしたかもしれないが、自分にはそんな気力はない。
だが。
──『太陽』。
混迷を続けた心霊研究の学会にとって、彼の存在はまさしくそれに当てはまるだろうが。
その彼を、現在照らしている存在は。
きっと、その傍らにいる彼女だろう。
開き掛けた扉を音を立てずに閉め、リンは静かな笑みを漏らした。
楽しげに告げられて、指さされた文字は、
『難波』
「──なんば、だろう。確か地名だったと思うが」
数年前、嫌になるほど日本の地図を見続けたお陰で、地名だけは辛うじて読める。
彼女の方も分かっていたようで、
「うん、今はね」
と、あっさり頷いた。
だがすぐに、
「でも、古来──昔の読み方は違ったんだって」
「そう」
大学の一般教養科目で古典でも取っているのか。
目では手元のジャーナルを追いながら、適当に相槌を打つ。
彼女は構わず続けた。
「そもそもの読み方は、『ナルニハ』って言うんだって」
メモ用紙に書かれた『難波』の文字の上に、カタカナでそう書く。
「でね、この、『ナル』って部分の意味だけど」
こちらを向いて、微笑んだ。
「──古代の朝鮮語で、『太陽』なんだって」
本当に、嬉しそうだった。
「…奇遇だな」
「そうだね。でも、なんとなーく嬉しいよ。ナル、の名前はニックネームなんだろうけどさ。
良いよね」
「ただの偶然だろう」
「そうだけどさー」
……楽しそうに漏れ聞こえる会話に、『ここは職場なんですが』という小言は出がけた吐息と共に飲み込んだ。
ここに、もう一人の事務職員が居れば、さっそくこの会話を録音するなりなんなりしたかもしれないが、自分にはそんな気力はない。
だが。
──『太陽』。
混迷を続けた心霊研究の学会にとって、彼の存在はまさしくそれに当てはまるだろうが。
その彼を、現在照らしている存在は。
きっと、その傍らにいる彼女だろう。
開き掛けた扉を音を立てずに閉め、リンは静かな笑みを漏らした。
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