GHファンフィクションサイト「白日夢ーまひるにみるゆめ」のblog。
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ナル麻衣、ネタバレ無し。なりゆきなりそめ話(ゑ)
宜しければ、続きから。
宜しければ、続きから。
ただ、その体温(ぬくもり)を。
12月も終わり頃。行き交う多くの人々に紛れ、道玄坂を一対の男女が歩んでいた。男女、と言っても年若い青年と未だ少女のようなふたりだった。雑踏を歩く彼らの間には微妙な距離がある。青年がやや彼女の斜め前を歩き、その後に遅れまいと少女が小走りになる。だが、青年の方もまるで彼女を守るかのように時折歩調を緩める。やがて白い吐息と共に少女が呟いた。
「寒いよねぇ」
「そうか」
青年の返答は素っ気ないが、彼女は全く気にしていないのか、そのまま言葉を続ける。
「あ、そっか。向こうはもっと寒いもんね…。ナルは寒いの平気なんだもんね」
彼女は首を竦めるが,その口調はどこか凪いでいた。青年の返答を待たずに独り言のように言葉を連ねた。
「向こうは北海道より緯度高いんだっけ。そりゃあ冷えるね」
「北海道よりはましかもしれないな」
「そうなんだ。ふーん…」
じき年越し、という街並みは賑やかで、事務所から駅迄の道程はどこか浮き足立っている。青年にとってはいつも以上に鬱陶しく感じるのだろう。自分と彼女に向けられた好奇の視線をその雰囲気だけではたき落としそうな気配を漂わせている。それはいつも通りのことなのだが、普段と違うのは彼女の様子だった。常の彼女なら、この雰囲気に浮かれてうるさい位にはしゃいでいる筈だ。それが今、言葉は多いがどこか投げやりで、訥々と話していた。まるで誰も受け取らないことを前提に投げたボールのように。そしてこれも非常に珍しいことに、青年はそれを一つ一つ掬い取って、受け止めてやっているようだ。
「…さむ」
再び小さく呟く彼女。青年はその肩に手を伸ばして抱き寄せた。駅はもう目前で、いつもならここで二人は別れるのだが。
「麻衣」
ナルが彼女の名を呼ぶ。歩みを止めて、振り返った彼女の元へ、彼はやや大股に歩み寄った。
「そんなに、寒いか」
見下ろした視線から彼女は逃れるように、その眼差しをすぐに逸らした。だがその直前、水面に石を投げ込んだ波紋の様に双眸は揺らいでいたのを、彼は見逃してはいなかった。
「あ…」
「寒いなら、暖めてやろうか」
抱き寄せた腕に力を込める。彼女の小さな肩は何かに怯えるかのように震えていた。それに一瞬彼は眉を顰めたが、そのまま肩を抱いて歩みを進める。彼女の躰を浚うように、背中に腕を回して。駅から離れて再び通りの方に彼は足を向けた。彼女の方は何か言いたげに口を開いたが、その時。
「食事でも行くか」
「え?」
「空腹なら余計寒さを感じるだろう?」
軽い口調で彼は告げた。それは功を奏したようで、彼女はは力強く頷いた。以前にも何度か二人で入ったことのある、駅にほど近い和食の店で軽い食事を取ると、彼女は嬉しそうに良く喋る。出された料理を一つ一つ褒め、ナルが食べられない物を麻衣におしやると嬉しそうにはしゃいでいた。馴染みの店員からは、いつもの彼女に見えただろう。愛想良く言葉を交わしていた。
「——今日は有り難う」
食事を終えて店を出ると、彼女は殊更に彼に明るい笑顔を向けた。
目を瞠る彼女に、
「言っただろう」
黙ったまま、寝室の扉を開け放ち。
「眠いなら、先に寝てろ」
ナルがそう告げると、麻衣は俯いてきゅっと胸元で拳を握った。そして、
「……ナルは?」
まるで幼いこどもが迷子になったかのように、心細い口調で俯いたまま麻衣は訊ねた。彼女の頭にナルは手を伸ばし、まだ濡れたままの髪を撫でる。そして掻き上げたその額に軽く唇を寄せて。
「…待ってろ」
そう告げれば、軽く頷いて麻衣は寝室へ向かった。それを見届けてナルはバスルームに向かう。シャワーを浴びながら、彼女の先ほどの言葉を考える。最初はただ、「寒い」と言った。だけどそれは決して物理的な物だけではない。ごまかすように普段以上に見当違いなことを口走っていたが、本当に自分に告げたかったのはそう言うことではないだろう。
言いたくないことには口をつぐむ自分と、虚偽の言葉を連ねて自分自身の感情さえもごまかそうとする麻衣。だが、自分にはそれは一切通用しない。彼女はまだそれに気付いていないかも知れないが。彼女が真に求めているもの。それを今、与えることが出来るのは自分だけだ。ただし、彼女の望む方法とはまた別だろうが。
ここに来ていながら、尚もその覚悟がないのか、単純に何も考えていないのか。泊まる、と言われたときは少し頬を染めていたから、わかっていたのかと思ったが。そして、あの感情は…。
ナルは麻衣に貸し与えたのと色違いのスウェットに着替えた。彼女のはオフホワイトだが、それはネイビーだ。そして真っ直ぐ寝室へ向かう。
一人では広すぎるくらいのベッド。遠慮しているのか出来る限り端の方に寄っているが、その躰はすっぽりと毛布に覆われて僅かに髪が出ているのが見えるだけだ。
「入るぞ」
声をかけて、その横に滑り込む。
「…お邪魔してます」
彼女の声には、やや緊張が滲んでいた。こちらに背を向けているが、その背に呼び掛ける。
「麻衣」
覚悟はあるのか、ないのか。今更それは赦されない、と自分の中で何かが叫んでいた。それを必死に押さえ込みながら、
「おいで」
その声に、麻衣は顔を出した。双眸は潤んでいて、暗い中でもその輝きは見えた。そして、
「ナルっ…」
彼の胸元に顔を寄せた。その躰をしっかりと彼は抱きしめた。
「あのね…ごめんね…」
「別に」
「う、うん。ナルには迷惑かけっぱなしだもんね」
「麻衣」
その名前と、視線で絡め取って。
「寒いんだろう?」
そう告げて、深く口付けた。唇を交わすのも初めてだろうに、いきなり強引に深く侵入されて、驚きの感情しか彼女からは感じられなかったが、それでも構わず互いの息が上がるまで続ける。麻衣がもう窒息寸前のところで漸く開放すると、
「…人命救助?」
瞳も唇も濡れそぼっているが、言葉は全て裏切っている。だが、
「そんなものかな」
彼女のノリに付き合って、それでも主導権は譲らずに、全身で貪るように服を着たまま触れ合った。
「あ—」
「…あたためてやるから」
だから、もう離れるな。
欲望の中に埋もれた純粋な願いも、きっと彼女に伝わっただろう。互いの温もりを与えるようにいつしか直に触れ合って。そして、
「あっ…ナル…」
「…麻衣」
視線と、その名と。呼び合って互いに絡め合って、そして結ばれる。
朝が来れば。
それはいつもの朝ではあるが、彼女は「寒い」とは言わないだろう。
そして彼も。
もしかしたら、彼女がそう言っていたのは、彼女自身の中の寂しさだけではなく、彼の孤独を感じ取ってそれに呼応していたのかも知れない。彼女自身は気付かなくても。
それならば。
「…覚悟しろよ」
深い眠りに落ちた彼女の前髪を掻き上げ、額に唇を寄せて彼は告げた。
これから先、彼女自身が拒んでも、彼は決して彼女を逃がすことはないだろう。周囲の人間に守られたとしても、そこからきっと捕らえることが出来る。今だけはその、呪わしいチカラにさえ感謝しながら、彼女の躰を抱き込んで、彼自身も睡りに堕ちていった。
『…覚悟しろよ』
物騒な、だけど優しい言葉で一瞬目が覚めたが、額への口付けにそのまま目を閉じていた。
(アリガトウ)
口にはしないで、祈るように彼に告げるとそのまま抱きしめられた。
寒さも孤独も、ここにはない。
本当は。
ただもう少し、傍にいさせてくれれば満足した、と自分では思っていた。だけど、一緒にご飯を食べていたら、もうそれだけではなく、あの部屋に帰ることすら、怖くなっていた。
一人だけれど、独りじゃない。それはわかっているのに。自分自身ではどうしようもなかった。
だけど、本当はこうなることを望んでいたのかも知れなかった。いきなりで、何の言葉も彼からは与えられなかったけれど、それでも。
「ありがと…」
温もり以上の激しい熱に、一度自分は壊れて、また再生したのかも知れない。
朝が来れば。
おはよう、と言おう。
いつもの朝ではあるけれど、きっと違う。
もう寒さなんて感じられないのだから。
出来ればまた、何度もこんな夜を迎えられることを願いながら。
彼女は再び、睡りに堕ちていく。
12月も終わり頃。行き交う多くの人々に紛れ、道玄坂を一対の男女が歩んでいた。男女、と言っても年若い青年と未だ少女のようなふたりだった。雑踏を歩く彼らの間には微妙な距離がある。青年がやや彼女の斜め前を歩き、その後に遅れまいと少女が小走りになる。だが、青年の方もまるで彼女を守るかのように時折歩調を緩める。やがて白い吐息と共に少女が呟いた。
「寒いよねぇ」
「そうか」
青年の返答は素っ気ないが、彼女は全く気にしていないのか、そのまま言葉を続ける。
「あ、そっか。向こうはもっと寒いもんね…。ナルは寒いの平気なんだもんね」
彼女は首を竦めるが,その口調はどこか凪いでいた。青年の返答を待たずに独り言のように言葉を連ねた。
「向こうは北海道より緯度高いんだっけ。そりゃあ冷えるね」
「北海道よりはましかもしれないな」
「そうなんだ。ふーん…」
じき年越し、という街並みは賑やかで、事務所から駅迄の道程はどこか浮き足立っている。青年にとってはいつも以上に鬱陶しく感じるのだろう。自分と彼女に向けられた好奇の視線をその雰囲気だけではたき落としそうな気配を漂わせている。それはいつも通りのことなのだが、普段と違うのは彼女の様子だった。常の彼女なら、この雰囲気に浮かれてうるさい位にはしゃいでいる筈だ。それが今、言葉は多いがどこか投げやりで、訥々と話していた。まるで誰も受け取らないことを前提に投げたボールのように。そしてこれも非常に珍しいことに、青年はそれを一つ一つ掬い取って、受け止めてやっているようだ。
「…さむ」
再び小さく呟く彼女。青年はその肩に手を伸ばして抱き寄せた。駅はもう目前で、いつもならここで二人は別れるのだが。
「麻衣」
ナルが彼女の名を呼ぶ。歩みを止めて、振り返った彼女の元へ、彼はやや大股に歩み寄った。
「そんなに、寒いか」
見下ろした視線から彼女は逃れるように、その眼差しをすぐに逸らした。だがその直前、水面に石を投げ込んだ波紋の様に双眸は揺らいでいたのを、彼は見逃してはいなかった。
「あ…」
「寒いなら、暖めてやろうか」
抱き寄せた腕に力を込める。彼女の小さな肩は何かに怯えるかのように震えていた。それに一瞬彼は眉を顰めたが、そのまま肩を抱いて歩みを進める。彼女の躰を浚うように、背中に腕を回して。駅から離れて再び通りの方に彼は足を向けた。彼女の方は何か言いたげに口を開いたが、その時。
「食事でも行くか」
「え?」
「空腹なら余計寒さを感じるだろう?」
軽い口調で彼は告げた。それは功を奏したようで、彼女はは力強く頷いた。以前にも何度か二人で入ったことのある、駅にほど近い和食の店で軽い食事を取ると、彼女は嬉しそうに良く喋る。出された料理を一つ一つ褒め、ナルが食べられない物を麻衣におしやると嬉しそうにはしゃいでいた。馴染みの店員からは、いつもの彼女に見えただろう。愛想良く言葉を交わしていた。
「——今日は有り難う」
食事を終えて店を出ると、彼女は殊更に彼に明るい笑顔を向けた。
目を瞠る彼女に、
「言っただろう」
黙ったまま、寝室の扉を開け放ち。
「眠いなら、先に寝てろ」
ナルがそう告げると、麻衣は俯いてきゅっと胸元で拳を握った。そして、
「……ナルは?」
まるで幼いこどもが迷子になったかのように、心細い口調で俯いたまま麻衣は訊ねた。彼女の頭にナルは手を伸ばし、まだ濡れたままの髪を撫でる。そして掻き上げたその額に軽く唇を寄せて。
「…待ってろ」
そう告げれば、軽く頷いて麻衣は寝室へ向かった。それを見届けてナルはバスルームに向かう。シャワーを浴びながら、彼女の先ほどの言葉を考える。最初はただ、「寒い」と言った。だけどそれは決して物理的な物だけではない。ごまかすように普段以上に見当違いなことを口走っていたが、本当に自分に告げたかったのはそう言うことではないだろう。
言いたくないことには口をつぐむ自分と、虚偽の言葉を連ねて自分自身の感情さえもごまかそうとする麻衣。だが、自分にはそれは一切通用しない。彼女はまだそれに気付いていないかも知れないが。彼女が真に求めているもの。それを今、与えることが出来るのは自分だけだ。ただし、彼女の望む方法とはまた別だろうが。
ここに来ていながら、尚もその覚悟がないのか、単純に何も考えていないのか。泊まる、と言われたときは少し頬を染めていたから、わかっていたのかと思ったが。そして、あの感情は…。
ナルは麻衣に貸し与えたのと色違いのスウェットに着替えた。彼女のはオフホワイトだが、それはネイビーだ。そして真っ直ぐ寝室へ向かう。
一人では広すぎるくらいのベッド。遠慮しているのか出来る限り端の方に寄っているが、その躰はすっぽりと毛布に覆われて僅かに髪が出ているのが見えるだけだ。
「入るぞ」
声をかけて、その横に滑り込む。
「…お邪魔してます」
彼女の声には、やや緊張が滲んでいた。こちらに背を向けているが、その背に呼び掛ける。
「麻衣」
覚悟はあるのか、ないのか。今更それは赦されない、と自分の中で何かが叫んでいた。それを必死に押さえ込みながら、
「おいで」
その声に、麻衣は顔を出した。双眸は潤んでいて、暗い中でもその輝きは見えた。そして、
「ナルっ…」
彼の胸元に顔を寄せた。その躰をしっかりと彼は抱きしめた。
「あのね…ごめんね…」
「別に」
「う、うん。ナルには迷惑かけっぱなしだもんね」
「麻衣」
その名前と、視線で絡め取って。
「寒いんだろう?」
そう告げて、深く口付けた。唇を交わすのも初めてだろうに、いきなり強引に深く侵入されて、驚きの感情しか彼女からは感じられなかったが、それでも構わず互いの息が上がるまで続ける。麻衣がもう窒息寸前のところで漸く開放すると、
「…人命救助?」
瞳も唇も濡れそぼっているが、言葉は全て裏切っている。だが、
「そんなものかな」
彼女のノリに付き合って、それでも主導権は譲らずに、全身で貪るように服を着たまま触れ合った。
「あ—」
「…あたためてやるから」
だから、もう離れるな。
欲望の中に埋もれた純粋な願いも、きっと彼女に伝わっただろう。互いの温もりを与えるようにいつしか直に触れ合って。そして、
「あっ…ナル…」
「…麻衣」
視線と、その名と。呼び合って互いに絡め合って、そして結ばれる。
朝が来れば。
それはいつもの朝ではあるが、彼女は「寒い」とは言わないだろう。
そして彼も。
もしかしたら、彼女がそう言っていたのは、彼女自身の中の寂しさだけではなく、彼の孤独を感じ取ってそれに呼応していたのかも知れない。彼女自身は気付かなくても。
それならば。
「…覚悟しろよ」
深い眠りに落ちた彼女の前髪を掻き上げ、額に唇を寄せて彼は告げた。
これから先、彼女自身が拒んでも、彼は決して彼女を逃がすことはないだろう。周囲の人間に守られたとしても、そこからきっと捕らえることが出来る。今だけはその、呪わしいチカラにさえ感謝しながら、彼女の躰を抱き込んで、彼自身も睡りに堕ちていった。
『…覚悟しろよ』
物騒な、だけど優しい言葉で一瞬目が覚めたが、額への口付けにそのまま目を閉じていた。
(アリガトウ)
口にはしないで、祈るように彼に告げるとそのまま抱きしめられた。
寒さも孤独も、ここにはない。
本当は。
ただもう少し、傍にいさせてくれれば満足した、と自分では思っていた。だけど、一緒にご飯を食べていたら、もうそれだけではなく、あの部屋に帰ることすら、怖くなっていた。
一人だけれど、独りじゃない。それはわかっているのに。自分自身ではどうしようもなかった。
だけど、本当はこうなることを望んでいたのかも知れなかった。いきなりで、何の言葉も彼からは与えられなかったけれど、それでも。
「ありがと…」
温もり以上の激しい熱に、一度自分は壊れて、また再生したのかも知れない。
朝が来れば。
おはよう、と言おう。
いつもの朝ではあるけれど、きっと違う。
もう寒さなんて感じられないのだから。
出来ればまた、何度もこんな夜を迎えられることを願いながら。
彼女は再び、睡りに堕ちていく。
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