GHファンフィクションサイト「白日夢ーまひるにみるゆめ」のblog。
更新記録、突発sssなど
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これで完結です。
Happy Birthday Dear...........Noll
「・・・あ・・・」
ナルの腕の中で、麻衣はゆっくりと目を開けた。
「どうした」
気配に気づいたのか、ナルは直ぐに問うた。
「すごく、久しぶりに視たの・・・ジーンの夢」
ゆっくりと言葉を紡ぎながら、彼女は夫の胸に擦り寄る。彼の方も引き寄せるように抱いて、その髪を梳きながら、訊ねた。
「奴に、会ったのか」
「ん・・・」
くすぐったそうに、でも半分寝ぼけているのか、麻衣はゆっくりと答えた。
「わかん・・・ない。会ったの、かな・・・?
ジーンに、『お帰りなさい』って言う・・・夢だったの・・・」
「そうか」
言いながら、麻衣の眦に何度もキスを落とす。
片割れには、もう何年も会っていなかった。彼女の夢にも、自分の呼びかけにも応えず、現れることはなかった。
もう眠ったかと思った妻は、顔を起こした。
「そう、言えば・・・今日、になったよね。誕生日」
「ああ、僕の・・・?そうだな」
「おめでとう、ナル」
それに口付けで応える。啄ばむように、何度も、何度も繰り返す。両腕に彼女を閉じ込めて。
「・・・ジーンにも、おめでとうって・・・言ってあげたかったな・・・」
囁くようなその声に、こんな時に、例え奴であろうと——他の男のことを考えるなと、さらに強く華奢な身体を抱きしめた。
汗が引いた躯は少し、冷たいがその奥には確かな熱を感じる。
穏やかな息遣いと、心地良い心音。
それは、生命の確かな証。そして……。
思えば、それは———予感だったのかもしれない。
暫く日本と英国との二重生活が続いたが、ある契機(きっかけ)で本格的に英国へ籍を置くことになった。
麻衣が妊娠し、そして夏に男児を出産したのだ。
日本に居たメンバーは皆はるばる祝福に駆けつけ、時折、長期に渡って世話を焼きに来た。子供の世話だけなら義母だけでも充分だが、麻衣のために、彼らは来てくれたのだった。慣れない環境の中、頑張っている彼女の為に。
慌しくも、充実した二年間が過ぎた、そんなある日のこと。
ナルが帰宅すると、珍しいことに家の中は静まり返っていた。
そのまま真っ直ぐ、居間に向かう。
案の定、ソファには妻と息子が健やかな寝息を立てていた。ルエラは買い物でも行っているのだろう、ここには居なかった。
黒髪の小さな息子は、母親の膝の上に抱きつくようにして眠っていた。
「麻衣」
苦笑しながら声をかける。放っておけば風邪を引いてしまうだろう。
しかし、熟睡してしまっているのか反応がない。ではまず、息子の方をベッドへ寝かそうとして、彼の方を見ると。
顔を上げて、目を開き、じっとこちらを見つめている。ぬばたまの双眸、黒い髪、そして顔のつくりは自分に似たのだろう。だが、表情は妻に似て、いつも快活に、くるくるとよく変わった。
だが、今は。
双眸に強い光、真摯な眼差しを浮かべこちらを凝視している。
そして、父親に向かって、
「ただいま、ナル・・・」
と。
家では、殆ど英語だった。二歳を過ぎた息子は話せるようになり、色々なことをべらべらと喋り捲る。おそらくこういう所も母親似なのだろうが、一番口にするのは『マミィ!』と。
そして、『ルエラ』『マーティン』と、祖父母にも盛んに声をかける。時々というかごくたまに『ダディ』と、呼んでくれる時もある。
だが、今の言葉は。
日本語で告げられた言葉を理解するのに、珍しく数瞬を要した。頭の中でもう一度反芻し、そして、ナルは応えた。
「おかえり、ジーン」
その瞬間。
くしゃりと、息子の表情が破顔した。その笑顔は、懐かしい、片割れのもの。全く違う、知らないはずの名前で呼ばれたのに、彼は嬉しそうに微笑んだ。小さな腕を懸命に伸ばす。
それに応えて、ナルはその身体を抱き上げた。そしてもう一度、
「おかえり」
と、呟く。再び嬉しそうに笑い、そのまま寝入ってしまった。
その小さな躯を柔らかく抱いて、ベッドに寝かせてから、ソファで眠る妻の隣に腰掛けて、その髪の一房に口付けた。
いつか。
彼が大きくなった時に、話そう。嘗ての自分の片割れのことを。そして、今日のことを。それまでは、自分の胸の内にのみ、秘めておこう。
「Happy Birthday, Dear..........」
この日。
9月19日。
全ての生まれ出づる命、存在する命に祝福と、感謝をこめて。
FIN
「・・・あ・・・」
ナルの腕の中で、麻衣はゆっくりと目を開けた。
「どうした」
気配に気づいたのか、ナルは直ぐに問うた。
「すごく、久しぶりに視たの・・・ジーンの夢」
ゆっくりと言葉を紡ぎながら、彼女は夫の胸に擦り寄る。彼の方も引き寄せるように抱いて、その髪を梳きながら、訊ねた。
「奴に、会ったのか」
「ん・・・」
くすぐったそうに、でも半分寝ぼけているのか、麻衣はゆっくりと答えた。
「わかん・・・ない。会ったの、かな・・・?
ジーンに、『お帰りなさい』って言う・・・夢だったの・・・」
「そうか」
言いながら、麻衣の眦に何度もキスを落とす。
片割れには、もう何年も会っていなかった。彼女の夢にも、自分の呼びかけにも応えず、現れることはなかった。
もう眠ったかと思った妻は、顔を起こした。
「そう、言えば・・・今日、になったよね。誕生日」
「ああ、僕の・・・?そうだな」
「おめでとう、ナル」
それに口付けで応える。啄ばむように、何度も、何度も繰り返す。両腕に彼女を閉じ込めて。
「・・・ジーンにも、おめでとうって・・・言ってあげたかったな・・・」
囁くようなその声に、こんな時に、例え奴であろうと——他の男のことを考えるなと、さらに強く華奢な身体を抱きしめた。
汗が引いた躯は少し、冷たいがその奥には確かな熱を感じる。
穏やかな息遣いと、心地良い心音。
それは、生命の確かな証。そして……。
思えば、それは———予感だったのかもしれない。
暫く日本と英国との二重生活が続いたが、ある契機(きっかけ)で本格的に英国へ籍を置くことになった。
麻衣が妊娠し、そして夏に男児を出産したのだ。
日本に居たメンバーは皆はるばる祝福に駆けつけ、時折、長期に渡って世話を焼きに来た。子供の世話だけなら義母だけでも充分だが、麻衣のために、彼らは来てくれたのだった。慣れない環境の中、頑張っている彼女の為に。
慌しくも、充実した二年間が過ぎた、そんなある日のこと。
ナルが帰宅すると、珍しいことに家の中は静まり返っていた。
そのまま真っ直ぐ、居間に向かう。
案の定、ソファには妻と息子が健やかな寝息を立てていた。ルエラは買い物でも行っているのだろう、ここには居なかった。
黒髪の小さな息子は、母親の膝の上に抱きつくようにして眠っていた。
「麻衣」
苦笑しながら声をかける。放っておけば風邪を引いてしまうだろう。
しかし、熟睡してしまっているのか反応がない。ではまず、息子の方をベッドへ寝かそうとして、彼の方を見ると。
顔を上げて、目を開き、じっとこちらを見つめている。ぬばたまの双眸、黒い髪、そして顔のつくりは自分に似たのだろう。だが、表情は妻に似て、いつも快活に、くるくるとよく変わった。
だが、今は。
双眸に強い光、真摯な眼差しを浮かべこちらを凝視している。
そして、父親に向かって、
「ただいま、ナル・・・」
と。
家では、殆ど英語だった。二歳を過ぎた息子は話せるようになり、色々なことをべらべらと喋り捲る。おそらくこういう所も母親似なのだろうが、一番口にするのは『マミィ!』と。
そして、『ルエラ』『マーティン』と、祖父母にも盛んに声をかける。時々というかごくたまに『ダディ』と、呼んでくれる時もある。
だが、今の言葉は。
日本語で告げられた言葉を理解するのに、珍しく数瞬を要した。頭の中でもう一度反芻し、そして、ナルは応えた。
「おかえり、ジーン」
その瞬間。
くしゃりと、息子の表情が破顔した。その笑顔は、懐かしい、片割れのもの。全く違う、知らないはずの名前で呼ばれたのに、彼は嬉しそうに微笑んだ。小さな腕を懸命に伸ばす。
それに応えて、ナルはその身体を抱き上げた。そしてもう一度、
「おかえり」
と、呟く。再び嬉しそうに笑い、そのまま寝入ってしまった。
その小さな躯を柔らかく抱いて、ベッドに寝かせてから、ソファで眠る妻の隣に腰掛けて、その髪の一房に口付けた。
いつか。
彼が大きくなった時に、話そう。嘗ての自分の片割れのことを。そして、今日のことを。それまでは、自分の胸の内にのみ、秘めておこう。
「Happy Birthday, Dear..........」
この日。
9月19日。
全ての生まれ出づる命、存在する命に祝福と、感謝をこめて。
FIN
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