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GHファンフィクションサイト「白日夢ーまひるにみるゆめ」のblog。 更新記録、突発sssなど
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「誓い」

↓8月14日、その想い遙かに。
ナルバージョン。しかし…古い…。
どっちも出すのはこっぱずかしいのですが。
宜しければ続きから。

 ──彼女の願いは、ささやかだ。
 だけれど、それ故に叶えられるのは難しいと、互いに知っている。

 それでも。

 

 

 

誓い


 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、毎年繰り返される事。
 当たり前の、やりとりで。
 内心ちょっとだけ、うんざりするけれど。こればかりは仕方ない。世間で言う所の『恋人』として付き合う前から、『雇用主とバイト』という関係だった頃から変わらない、毎年の恒例行事。

 

「ナル。ちょっと早いけど、誕生日プレゼント。何が良い?」
 8月の初旬。もうすぐ英国へと一時帰国する彼の荷造り(読まなくなった書籍や、解析したデータやら本部に持って行くデータやらだ。生活用品は自宅に有るので殆ど無い)を手伝いながら、麻衣は尋ねた。
 どうせ、答えなんて解っているのだ。
 付き合う前は、「いらない」の一言で片付いた。付き合うようになってからは「何でも」と。だからどうせ、今年もだろうと。

 

 だが、彼は珍しい事に反応を示した。ふと、その手が止まり、こちらへと視線を向けた。
「…毎年同じ事を訊いてるが。訊かないと分らない物なのか?」
「は?」
 思わず、手を止めて彼を凝視してしまった。
 去年も一昨年も、『別に何でも良い』と言われたから、取りあえず実用的な物を贈って来た。それに関して彼が不満を述べた事はない。使ってくれているようだし。でも、でも…今の台詞って?
「…えと?」
 首を傾げて、問いかける。意味が分からなかった。
 これは『言わなくても僕の欲しい物くらい分るだろう』と言いたいのか?
「……」
 黙ったまま、イヤな溜息を落とされ、麻衣の頭に血が上った。
「ちょっと!あんだよ、それっ。言ってくれないと分んないでしょーっっがっ」
 そう怒鳴れば、
「麻衣こそどうなんだ」
「えっ」
 切り返されて、再び固まる。
「人には毎年訊くくせに、自分の誕生日には何も言わないだろうが」
「…言わなかったっけ?でも、毎年一緒に居てくれるから、それでいいんだけど…」
 再び、ナルは溜息を吐く。
「……自分の希望を言ってみろ」
「いや。だから、いいんだって。特に欲しい物はないし」
「…僕には『欲しい物を言え』と言っておいて?」
「あー…」
 なんでだろう。なんでナルは怒っているのだろうか。事実、それが彼女の望みで、毎年ではないにしろ、ほぼ叶えてくれているし。何よりも。 

 ────それだけが、幸せなんだよね。
 
 まるで、家族のような存在。漸く与えられた、居場所。それが何よりも嬉しい。普通の家族なら、当たり前だと思うかもしれないが、彼女にとってはそれが一番の願いだったから。
 だから。
 これ以上の望みは、言えない。言葉にした瞬間、奪われてしまうかもしれないから。 

 彼女の奥底には、常にこの不安があった。
 黙ったままでいると、ナルの手が麻衣の頬に触れた。
「言ってみろ」
「え。…いや、だって」
 困惑していると、その手に引き寄せられた。
「お前の、本当の望みは何だ?」
 有無を言わさぬ厳しい口調。そして、鋭い眼差しだったが、その奥には暖かな光があった。
 惹かれて、自然と涙が零れた。
「麻衣?」

 再び、訊かれて。耳元に言葉を落とされる。
「言え」
 偉そうで、嫌みな口調なのに、何故か嬉しかった。だから、思わず、
「あの、ね……。いつまでも、傍に居させてくれる…?」
 叶う訳がない、と分っている願い。だから、今までは決して口にしなかった。だけど、今この時ならば、告げても良いと感じた。温かな抱擁に包まれて、目を閉じ寄って胸元にすり寄った。
 宥めるように、頭を撫でていた手の動きが止まり、少し離された。
 綺麗な、黒曜石のように輝く双眸が、楽しげに煌めいて覗き込んで来た。そして、
「麻衣。…それは、プロポーズだと受け取っていいんだな?」
 実に楽しげに、囁く。
 

 

 

 

「は……?」
 数俊の後、素っ頓狂な声が出た。ナルはそれに構わず、
「覚悟しろよ。色々と面倒な手続きは有るし、暫く忙しくなるかもしれないが」
「あ、えと?」
「今回の帰国では無理だから、冬辺りにするか。麻衣、パスポート、作っておけ」
「あの?」
 こちらを一切見ずに、ナルは一方的に告げる。
「ちょっと待ってよ、ナル。なんで…そう言う事になる訳」
 漸く口を挟むと、
「そうじゃないのか」
 不穏な視線で、睨まれた。 
「麻衣」
 痛くなるくらいに、腕を掴まれた。恐かったけれど、それでも、
「ナル…そんなんじゃないよ」
 と、抗議する。
「では、なんだと?」
 穏やかだった双眸には、焔が燃えている。恐怖を感じる程に、強い。だけど、これだけは言わなければ。
「そんなんじゃ、ないよ。ただ、傍に居られる間だけで良いの。それ以上は、いらないから…」
「…そんないい加減な気持ちで、僕と付き合いたいと?」
「いい加減、なんかじゃ、ない…」
 涙で言葉が詰まる。
「でも、でもね。……家族には、なれないよ」

 そう告げて、堪えきれずに泣いた。それは、決して求めてはいけないものだから。

 ──泣き続ける、麻衣の背中を抱き寄せる。
「馬鹿だな」
 溜息とともに告げれば、「どうせ馬鹿だもん…」弱く囁く。
 分っている。本当は、彼女が何を恐れているか。
 ただ、生活が変わる事を恐れている訳ではない。
 日本国籍の彼女と英国籍の自分では、色々と煩雑な手続きも有るし、最終的には向こうで暮らす事になるだろう。だが、彼女が本当に恐れているのはそれではなく。

 彼女も、自分も。孤児だから。

 今更当たり前の事だ。だが、『家族』に憧れながらも、それが奪われる可能性ばかりを彼女は危惧する。
 当たり前のようにあった、それを奪われる痛みを彼女は良く知っている。
 ──奪われて、苦しむなら最初から無かった方が良い、と。
 
「馬鹿だな」
 もう一度言って、濡れた瞼に、頬に、口付けて行く。
「今更、だろうが」
「……?」
 不思議そうに顔を上げた。その唇を奪う。
 幾度となく繰り返された行為。それでも、何度でも重ねて求めるのは、僕自身が確かめたいからだ。
「な、る」
 喘ぎながら名を呼び、潤んだ双眸で見上げて来る。いっその事、このまま押し倒してやりたくなるが。 
「???帰ってから」
「ん?」
「答えは、帰ってから訊くから」
「わかった…」
 安堵したように、息をつく。
 それをもう一度抱き寄せて、額に口付けた。


 ──もうすぐ。あの日が巡って来る。
 

 その日が近づくたびに、恐れていた事を。
 僕は再び思い起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────空港から、その場所までは遠い。
 成田に降り立ったそのままの足で、その地へ向かう。空港から事務所に連絡を入れてみると、居たのは安原さんとリンだけで。
 彼女は居なかった。
 どこに行ったのかは、二人は訊いていないと云う。だが。
 僕には、もう分っていた。
 
 新幹線とタクシーを乗り継いで、漸く辿り着いた。
 夕闇に沈もうとしている湖面に、さざ波の光が煌めく。その水面を、声もなく見つめる人影。
 闇に飲み込まれるかのように感じたのは、彼女がらしくなく、漆黒の衣装に身を包まれているからだろう。普段の彼女からは、想像もつかない色で。

 ──闇に沈もうとするその姿を、この腕に搦めとる。
 拒まずに、受け入れる穏やかな光。振り向き、僕に向かって微笑みかける。 

 奪われたくない。
 いっその事、僕の中に全て封じ込めてしまいたい。
 愚かな想いに気付いたのか、腕の中で彼女はただ微笑む。
 だから。
「今、此処で誓え」
 告げた言葉に、ただ頷く彼女を抱きしめる。
 身勝手な願いだと思う。だが、彼女はそれを受け入れる。身の内から発する仄かな光を、僕に与えて。
「うん。誓う…」
 その言葉に安堵しかけた時、彼女の言葉に再び驚かされたけれど。

 ────封じる事は出来なくても。
 ただ、今この時傍に居る。
 
 それが出来るだけ続くように、抱きしめる。
 その祈りを、言葉に変える事はできなくても────────。

 

 

 

 

 

 

 

 


fin
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