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GHファンフィクションサイト「白日夢ーまひるにみるゆめ」のblog。 更新記録、突発sssなど
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第2話。

一応続き物なので、順番通りにお読み下さい。

Happy Birthday Dear...........




 波間に漂うように、曖昧な意識が急速にかき集められ、『自分』という形を作る。そうして『彼』は覚醒した。
 常に夢現、片割れとその傍に居る、愛しい少女の存在を追ってはいたが、めっきりと覚醒することが減っていた。
 いや。
 そして、その微睡みも既に終わった筈だったのに。




 それでもゆっくり『目を開ける』と、かつて見慣れた風景が視界に飛び込んできた。こんな所で調査中、という事態はまずあり得ない事し、ましてや景色がちゃんと『色鮮やかに』見えるのだ。




 しかもそこは、見慣れた懐かしい場所。
 見覚えのある家具が並んでいる。ダイニングテーブルや椅子、居間のソファやそこにあるクッション、絨毯等等。
 その中で、忙しなく立ち回る、義母。
 かつて彼が暮らした場所。彼が居なくなって何年経ったのか分らない。が、そこにある景色は一見変わりの無い様に見えた。



「遅くなりましたっ。ルエラ、ごめんなさい」
 威勢のいい挨拶と共に、入ってきたのは若い女性。両手に荷物を抱えている。そして、無言の青年が続く。
「お帰りなさい。麻衣、ナル」
 ルエラは二人に駆け寄り、まず女性の方を抱きしめ、頬に軽いキスをする。彼女もそれに応え、キスを返す。そして再び謝った。

「ごめんなさい、半日も遅れて」
「いいのよ、飛行機が悪いんだから。麻衣も疲れたでしょう?」
 それに、大丈夫です、と、麻衣は笑って首を振る。
 ルエラは漸く息子の方に向き直り、頬に口付けた。
「ナルも。お疲れ様」
「・・・ただいま」
 分りにくいが、微かな笑みを浮かべてナルはルエラを抱き返す。それから、足元に荷物を置いて、おもむろに、
「では、行ってきます」
 と、告げた。
「もう研究所へ?少し休んでいけばいいじゃない」
「既に予定より一日遅れている。至急整理したいデータがあるし」
 相変わらずの仕事馬鹿ぶりに、義母は呆れて、
「そうは言っても、今日はあなたと麻衣の新婚旅行もかねているんでしょう?少しくらい休んで行きなさい」





 それを聞いて、息を吐いた。
 良かったね。おめでとう・・・。胸の中を、幸せな思いと、そして僅かな寂寥感が満たした。
 暫く——それこそ数年も、自分は目覚めることがなかった。その間に、二人は新しい関係に踏み出していたのだろう。それは当然の事で、また歓ぶべきことだ。

 おめでとう。

 もう一度呟いて、祝福を送る。




 暫く不平を漏らしていた、ルエラを宥めたのは新妻の方だった。
「いいんです、ルエラ。これで仕事よりこちらを優先したら具合が悪いのかと思っちゃいますもん」
「でも、麻衣・・・」
「ルエラ、そんなに長くかからない。直ぐに戻る」
 ため息と共に息子が言うと、
「そう?なら、いいけれど・・・」
 まだ納得していない様子で言う。
「帰りは大学によって、マーティンと一緒に帰るから遅くはならない」
 そう念を押して、漸く義母は落ち着いたようだった。


「行ってらっしゃい」
 妻と、義母に見送られて彼は家をでる。

 出かけるナルと、家に残る麻衣たちを交互に眺め、結局麻衣の方に意識を向ける。
 彼女たちは全くこちらに気づいていない。だからこそこうして見守ることが出来るのだが。

 ルエラは、変わりなく穏やかに笑っている。だけど、幸せそうだった。義理の娘が出来て心底喜んでいるのだろう。何時の間にそこまで仲良くなったのか分らないが、麻衣ならばルエラは気に入るだろうとは思っていた。

 そして麻衣は、もはやかつての少女ではない。
 記憶にあるより髪も身長も伸び、少女から女性へと花開くように変貌を遂げている。光あふれるような笑顔は、以前よりも更に一層咲き誇っているかのようで、『愛らしさ』より『美しさ』が際立っている。

 その輝きも、笑顔も、おそらくはあの片割れによってもたらされたものだろう。

 何故、と再び想う。
 どうして今、自分は目覚めているのか。


 一瞬『彼女の夢』の中に入り込んだのかとも考えたが、そうではないと解っている。現実世界は見えないと思っていたが、現在(いま)だけはそうではないと。


  会いたい。


 時折抱いては、忘れようとした想いが再び強く蘇る。
 会って、話して、祝福したい。二人を。せめて、彼女の夢の中でもいいから。
 だが、今は見守ることしか出来ないでいた。

 日が暮れる頃、予告どおりにナルはマーティンと共に帰宅した。
「麻衣、ようこそ!それより、お帰りというべきかな」
 そう言ってマーティンは麻衣の頬にキスをする。
 更に抱擁しながら、
「君が来てくれて本当に嬉しいよ、どうかね?もう一度こちらで結婚式を挙げるというのは」
 麻衣はそれに苦笑しただけだが、憮然とした表情の息子が言う。
「あんなものは一度で充分だ」
「そうだな、日本でやったんだから。だが覚悟しておいた方が良いよ、ナル?せめてお披露目パーティくらいはもう一度やれとお偉方が騒いでいるからな」
「・・・・・・」
 眉を顰める息子にウィンクしてから、今度は麻衣に話題を振る。
「麻衣も明日、ナルと研究室へ行こう。君のお茶がまた飲みたいと、ファンたちが言うんでね」
 これには麻衣も目を見張った。
「結婚式前、挨拶に来てくれた時、君に会った連中はもうみんな君に夢中になってね。今日だってナルが一人で来たからがっかりしていたよ」
「・・・・・・」
「ナル、ちゃんと麻衣をエスコートしなさい。麻衣、頼んだよ?」
 ますます顔をしかめる息子の肩を叩きながら言う。麻衣はなんとか頷きを返した。



 晩餐のテーブルを囲みながら、彼らは談笑する。そこに自分の居場所はない。だが、それを寂しいとは思わなかった。
 マーティンもルエラも楽しそうだし、麻衣も新しい『家族』を得て、本当に幸せそうだった。ナルでさえ、相槌を打つ事はしないまでも、ちゃんと会話に耳を傾けている。
 時折、麻衣へと視線を向けていた。

 ナルも成長したよね、と感慨深く頷きながらまだ見続けていたが、流石にこの場面では視線をそらした。
 ナルと麻衣は、二人一緒に部屋に入っていく。ただ寝る、だけではないだろう。
 ———視たい、気もするが流石に止めた。そして、苦笑しながら意識を遮断する。
 再び、溶けていくような感覚。

 ああ、眠いな・・・。


 もしかしたら、もう再び目覚めないかもしれないが、それでもいいと思っていた。
 —————だが。




 再び、闇の中で目覚めた。馴染んだ空間だった。
 最後に見たのは光の中の笑顔。

 だのに、どうして今此処にいるのだろう。
 おそるおそる近寄ってみると、それは自分を迎えるように一層強く輝いた。なんとなく、手を伸ばすとその光は人の姿を取った。

 ああ、麻衣。君だったんだね。
 自分に向けた、今までの笑みより更に優しい笑顔を浮かべて、麻衣は両腕を拡げる。唇が、声にならない言葉を紡いだ。


 お帰りなさい、ジーン。

 ・・・ただいま。

 応えて、彼女の腕に抱かれる。
 どうしてだか、故郷に戻ってきたような、懐かしいような、泣きたくなるような。
 ただ嬉しいという、歓びに満たされて———意識は溶ける。
 
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